Last Update : 2004/04/11

最高裁判所判決全文表示
【出典名 最高裁判所民事判例集53巻3号580頁】

平成11年3月25日 第一小法廷・判決 平成10(オ)1183 株主総会決議不存在確認等

判示事項

  取締役等を選任する甲株式総会決議の不存在確認請求に同決議が存在しないことを理由とする後任取締役等の選任に係る乙株主総会決議の不存在確認請求が併合されている場合における先の決議の存否確認の利益

要旨

  取締役等を選任する甲株主総会決議の不存在確認請求に、同決議が存在しないことを理由とする後任取締役等の選任に係る乙株主総会決議の不存在確認請求が併合されている場合には、後の決議がいわゆる全員出席総会において行われたなどの特段の事情のない限り、先の決議についても存否の確認の利益が認められる。

参照・法条

  商法252条,民訴法134条

内容

  件名  株主総会決議不存在確認等 (最高裁判所 平成10(オ)1183 第一小法廷・判決 棄却)
  原審  平成10年1月30日 大阪高等裁判所

主  文

  本件上告を棄却する。
  上告費用は上告人の負担とする。

理  由

 上告代理人西澤豊の上告理由第一点ないし第四点について

 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は独自の見解に基づいて原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。

 同第五点について

 一 原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。(1)上告人は、被上告会社の株主であり、昭和五九年当時は取締役であった。(2)同年五月一二日に開催された被上告会社の株主総会において、取締役及び監査役を選任する原判決別紙記載の本件第一株主総会の決議(以下、同別紙記載の各決議を単に「第一決議」のようにいう。)が行われた。(3)その後、右取締役及び監査役の任期の満了時又はその中途において、その選任のため、順次、第四及び第五決議、平成元年五月二八日、同三年五月三一日、同五年五月三〇日の各決議、第八及び第九決議が行われた。(4)第六及び第七決議は、商業登記簿にはこれらが行われたかのように記載されているが、実際には行われていない。

 二 取締役及び監査役を選任する株主総会決議が存在しないことの確認を求める訴訟の係属中に、後の株主総会決議が適法に行われ、新たに取締役等が選任されたときは、特別の事情のない限り、先の株主総会決議の不存在確認を求める訴えの利益は消滅すると解される。
 しかし、取締役を選任する先の株主総会の決議が存在するものとはいえない場合においては、その総会で選任されたと称する取締役によって構成される取締役会の招集決定に基づき右取締役会で選任された代表取締役が招集した後の株主総会において新たに取締役を選任する決議がされたとしても、その決議は、いわゆる全員出席総会においてされたなどの特段の事情がない限り、法律上存在しないものといわざるを得ず、この瑕疵が継続する限り、以後の株主総会において新たに取締役を選任することはできないこととなる(最高裁昭和六〇年(オ)第一五二九号平成二年四月一七日第三小法廷判決・民集四四巻三号五二六頁)。右は、後にされた決議が監査役を選任するものであっても、同様である。
 そうすると、右のような事情の下で瑕疵が継続すると主張されている場合においては、後行決議の存否を決するためには先行決議の存否が先決問題となり、その判断をすることが不可欠である。先行決議と後行決議がこのような関係にある場合において。先行決議の不存在確認を求める考えに後行決議の不存在確認を求める訴えが併合されているときは、後者について確認の利益があることはもとより、前者についても、民訴法一四五条一項の法意に照らし、当然に確認の利益が存するものとして、決議の存否の判断に既判力を及ぼし、紛争の根源を絶つことができるものと解すべきである。

 三 原審は、第一及び第四ないし第八決議の不存在確認を求める訴えについて、これらにより選任されたとされる役員の任期が満了し、最後の第九決議で役員選任が行われたことにより、訴えの利益を失ったとして、右訴えを却下した。しかし、第八決議中の監査役に関する部分については、その後に当該監査役の後任者が選任されたことの主張立証はないから、これに関する訴えの利益が失われたといえないことは明らかである。また、第一、第四及び第五決議並びに第八決議中の取締役に関する部分については、前記二で述べたところにより、第九決議の先決関係に立つ事項として、訴えの利益があるものというべきである。したがって、この点に関する原審の判断は、法令の解釈適用を誤ったものといわざるをえない。
 ところで、原審は、第九決議の不存在確認請求について判断するに当たり、先行の第一、第四、第五及び第八決議の存否について十分な実体審理を遂げていることが記録上明らかであり、右先行決議の不存在確認請求について、更に原審において格別の審理判断を経なければならない実質上の必要はない。このような場合には、当裁判所において、原審のした認定に基づいて、各請求の当否について直ちに判断することが許されるものと解される。そして、原審は、前記一の事実を確定しており、これによれば、第一、第四、第五及び第八決議の不存在確認請求については、これを棄却すべきものであるが、この結論は原判決よりも上告人に不利益になるので、上告を棄却するにとどめることとする。

 四 第六及び第七決議の不存在確認を求める訴えについては、同決議は第八及び第九決議の存否を確定するについての先決関係に立つものではなく、記録によれば、商業登記簿中、第六及び第七決議があることを前提として記載された役員欄の用紙は既に閉鎖されていることが明らかであり、右決議の不存在確認を求める訴えの利益について、他に特段の主張立証はないから、原判決中、右訴えを却下した部分は正当であり、論旨は理由がない。

 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

  最高裁判所第一小法廷
  裁判長裁判官 藤井 正雄 小野 幹雄 遠藤 光男 井嶋 一友 大出 峻郎

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